「数」1.2 数を広げる-有理数

2023年9月23日

キーワード:有理数、小数、稠密

割り算と逆数

前回、整数が和・差・積について閉じていることまでをみました。そして残っている計算は割り算です。

1は1以外の数字で割り切ることはできません。そこで、ある整数\(n\)についてその整数と掛けると1になるような数を逆数とし、\(\frac{1}{n}\)と書くことにします(自然数の逆数は約分できないので出発点として必ず使えます)。そして、一般の商\(n \div m\)を
\[
n \div m = n \times \frac{1}{m} = \frac{n}{m}
\]
と分数で定義します。ここで\(n\)と\(m\)に公約数があった場合、\(\frac{n}{m}\)はほかの整数の商で表すことができます。

たとえば、\(n=n’ p , m=m’ p\)と書ける時(\(p\)は2以上の自然数)、これは約分でき、
\[
\frac{n}{m} = \frac{n’}{m’}
\]
です。これ以上約分できないときその分数は既約であるといいます。素数や素因数分解、約分などの性質はまた重要な数の性質ですが、今回は扱わないことにします。これもどこかで取り上げることができればと思います。

分数で表すことのできる数を有理数といいます。有理数の集合は\(\mathbb{Q}\)と書きます。

有理数の計算についての説明は不要でしょう。

小数で表す

有理数の重要な性質として、小数で表すことができる、ということがあります。

当たり前のことと思うかもしれませんが、中学・高校の教科書で有理数と無理数を分けるポイントになっていますので、ちゃんと見ておきましょう。

たとえば、\(1 \div 4\)を小数であらわすことを考えます。
\begin{alignat*}{2}
1 \div 4 &= 0 \cdots 1 &\qquad & \text{(あまりの1を10倍する)} \\
10 \div 4 &= 2 \cdots 2 & \qquad & \text{(あまりの2を10倍する)} \\
20 \div 4 &= 5 & \qquad & \text{(割り切れた)}
\end{alignat*}

以上のような計算の結果、\(\frac{1}{4} = 0.25\)となります。

割り切れない割り算の場合もあります。たとえば、

\begin{alignat*}{2}
3 \div 7 &= 0 \cdots 3 &\qquad & \text{(あまりの3を10倍する)} \\
30 \div 7 &= 4 \cdots 2 & \qquad & \text{(あまりの2を10倍する)} \\
20 \div 7 &= 2 \cdots 6 & \qquad & \text{(あまりの6を10倍する)} \\
60 \div 7 &= 8 \cdots 4 & \qquad & \text{(あまりの4を10倍する)} \\
40 \div 7 &= 5 \cdots 5 & \qquad & \text{(あまりの5を10倍する)} \\
50 \div 7 &= 7 \cdots 1 & \qquad & \text{(あまりの1を10倍する)} \\
10 \div 7 &= 1 \cdots 3 & \qquad & \text{(あまりの3はすでに出てきているので、あとは繰り返し)}
\end{alignat*}

一般に、自然数\(n\)で割ったあまりは\(n-1\)以下の自然数であり、多くても\(n\)回割り算を繰り返せば同じ余りが出てきます。その後は同じ計算の繰り返しになりますから、割り切れない場合でも有限個の数字を繰り返す循環小数であらわすことができます。今の場合、

\[
\frac{3}{7} = 0.\dot{4}2857\dot{1}
\]

と書きます。

よって、すべての有理数は有限回で割り切れるか、有限個の数字列が繰り返す循環小数のどちらかで表すことができます。

この表現には一つやっかいな性質があります。それは一意ではない、ということです。たとえば、

\[
x = 0.999999 \cdots = 0.\dot{9}
\]

を考えます。これは、

\begin{alignat*}{2}
10x &= 9.99999 \cdots & \qquad & \text{両辺からxを引くことによって} \\
9x &=9 & \qquad & \text{よって} \\
x &= 1 & \qquad & \qquad
\end{alignat*}

よって\(0.9999 \cdots = 1\)です。これはいろいろな証明で問題になりますが、注意だけしておきます。

\subsection{有理数の濃度}

つぎに有理数の濃度を考えます。

ある無限集合を決まった順番にならべることができれば、それは自然数と同じ濃度、可算無限個となるのでした。

有理数\(\frac{n}{m}\)を、\(m+n=l\)が小さい順、そして\(m\)が小さい順にならべます。そして約分できるものを消します。()の中に入れたものが消したものです。

\[
\frac{0}{1},\frac{1}{1}, \left( \frac{0}{2} \right),\frac{2}{1},\frac{1}{2},\left( \frac{0}{3} \right),\left( \frac{2}{2} \right),\frac{1}{3},\left( \frac{0}{4} \right), \cdots
\]

これで有理数に順番付けができました。よって
\[
n(\mathbb{Q}) = n(\mathbb{N})
\]

です。

この順序付けはいわゆる大小関係とは違います。しかし整数同様、有理数には大小関係=順序を定義することができます。この点には深く立ち入りませんが、このような集合を順序集合といいます。

稠密:有理数は詰まっている

整数から拡張して有理数を作ったわけですが、これはどのくらい拡張されたのでしょうか。

数直線を考えたとき、有理数がそれをどのくらい埋め尽くすか考えます。

いま適当な相異なる2つの有理数\(x\)\(<\)\(y\)をとってきます。このとき\(x<z<y\)となる有理数\(z\)が必ず存在します。(たとえば\(\displaystyle{z=\frac{x+y}{2}}\)をとることができます)

このように、ある(順序が定義された)集合の異なる2つの要素を取り出したとき、必ずその間にも要素があるとき、その集合は「稠密(ちゅうみつ)である」といいます。ぎっしりつまっている、という意味です。どいうことかというと、2つの要素の間に必ず異なる要素があるならば、その要素との間にもまた別の要素があるわけです。これを繰り返していけば、任意の区間に無限に要素があることになるのです。

次回予告:有理数の隙間

では、有理数が「ぎっしりつまっている」ということは、隙間はないのでしょうか?

もちろんご存知のように無理数というものが存在するので、そうではありません。つまり数直線の上に「有理数でない点」があるということは、有理数の集合にはまだ隙間があることになります。

では、どうやってこの「有理数ではない数」をきっちりと考えることができるでしょうか。これが次回のテーマ、「実数の構成」です。