「数」3.1 数学をルールから捉える―抽象代数学・群について

2023年11月9日

今回の話は、少しわき道にそれるようにも見えるかもしれません。しかし、四元数の性質を考える前に、計算のルールに着目した考え方である「抽象代数学」について触れておきたいと思います。というのも、四元数はこれまでの複素数と違ったルールで計算されるからです。そういうものにいきなり触れるよりも、もっと分かりやすい例を交えて、計算ルールの自由度について考えておくのはよい準備になると思います。

ただし、この節についてはもう少し拡充したいと考えています。というのも、群を用いた議論はさまざまな側面をもっているので、ここで書いた内容はそのうちのほんの一部分にすぎないからです。

計算のルールに着目する「抽象代数学」

私たちは、ふだん何気なく次のような計算をしています。
\begin{eqnarray}
1 + 2 &=& 2+1 \label{wa_koukan} \\
2 \times 3 &=& 3 \times 2 \label{seki_koukan}\\
2 \times (3+4) &=& 2 \times 3 + 2 \times 4 \label{bunpai} \end{eqnarray}

式(\ref{wa_koukan})や(\ref{seki_koukan})のような計算が可能であることを「交換則」といいます。これは計算の順番を交換しても結果が変わらないことをいいます。和や積とは違い、差や商は計算の順番を変えてしまうと結果が変わってしまいます。こういう計算は「交換則が成り立たない」といいます。

一方、式(\ref{bunpai})の計算は、「分配則」といいます。かっこを外す計算をするときの基本ルールです。これは和を差に変えても成り立ちますが、積を商にした場合は、右からの割り算のとき、すなわち$(3+5) \div 2 = 3 \div 2 + 5 \div 2$の場合のみ成り立ちます。

さて、この話を一般化しましょう。

まず集合Sを考えて、そのうえでの演算「$\cdot$」を考え、これがS上で閉じているとします。つまり、Sの元$a,b$があったときに、$a \cdot b$もまたSの元になっているとします。

このとき、以下の条件をすべて満たすならば、集合Sは演算$\cdot$について、群をなす、といいます。

  1. 単位元$e$の存在:すべての$a \in S$について、$a \cdot e = e \cdot a = a$となる元$e$が存在する
  2. 逆元の存在:すべての$a \in S$について$a \cdot a^{-1} = a^{-1} \cdot a = e$となる元$a^{-1} \in S$が存在する。 これを逆元と呼ぶ。
  3. 結合則:$a \cdot (b \cdot c) = (a \cdot b) \cdot c$


これは、普通の実数や複素数が和や積(積の場合0を除く)について成り立っていることはすぐにわかると思います。

さらに

交換則:$a \cdot b = b \cdot a$が成り立つ

を満たすならば、これを加群(可換群・アーベル群ともいう)と言います。

ここで交換則を別格に扱ったことには意味があります。今まで出てきたような普通の数は、交換則も成り立つ加群を構成していました。しかし、数学で扱う対象を広く考えるならば、むしろこのような性質をもつものは少なく特殊な例といえます。そこで、より広い「群」を考え、それへのさらなる付加条件として交換則をもつ群として加群を定義しています。

数学の対象となるもので、加群ではない例としてまず挙げられるのが、行列でしょう。

行列は、たとえば以下のような2行2列の正方行列があります。

\begin{equation}
A =
\begin{pmatrix} 1 & 2 \\
3 & 4 \end{pmatrix}
\end{equation}

行列の積は、たとえば2次の正方行列(A,B)の積ならば以下のように定義されます。

\begin{equation}
AB =
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} \\
a_{21} & a_{22}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
b_{11} & b_{12} \\
b_{21} & b_{22}
\end{pmatrix} = \\
\begin{pmatrix}
a_{11} b_{11} + a_{12} b_{21} & a_{11} b_{12} + a_{12} b_{22} \\
a_{21} b_{11} + a_{22} b_{21} & a_{21} b_{12} + a_{22} b_{22}
\end{pmatrix}
\end{equation}

この積は群を作りますが、一般に$AB \neq BA$となることは容易に確かめることができると思います。

また、ベクトルの外積と呼ばれる計算も、交換則を満たしません。これは、一般に
\begin{equation}
\vec{A} \times \vec{B} = – \vec{B} \times \vec{A}
\end{equation}
が成り立ちます。このように、積の順番を交換するとマイナスがつく場合、とくに反可換といいます。

行列やベクトルの積についての詳細は線形代数学の教科書を参照してください。

先取り的にいうと、複素数は実数になるときに順序体であることを捨てました。四元数はさらに可換性を捨てるのです。そうやって計算のルールの制限を取り除くことによって、より複雑な構造を獲得するといってもいいでしょう。このような拡張は、次に結合則を捨てる八元数で群を作るものは終わりになりますが、そこまでの話をするつもりはありません。
こういった議論を紹介しているのは、多分に最終的な目標である量子力学(場の量子論)を意識して作っています。光などの相互作用はボソンと呼ばれ、交換する世界に属します。いっぽうの電子などの物質はフェルミオンと呼ばれ、反交換の世界に属しています。そこでは、計算ルール(代数)が大きな役割を果たしているのですが、そういう話もいずれはどこかで書きたいと思っています。

数以外の群と群の表現

数以外でも群を作ります。たとえば、次のような3文字の文字列を考えます。
\begin{equation}
A = {abc}
\end{equation}
このとき、1文字目と2文字目を交換することを、「互換」といい$(1 2)$と表記します。こうすると、いまの文字列は、
\begin{equation}
A’ = {bac}
\end{equation}
となります。こうした文字の交換全体は群をつくり、対称群といいます。これは文字式の対称式を不変にする変換という意味で、方程式の解と係数の関係で出てくる基本対称式と関連して、方程式論で重要な意味をもつ群です。

また、図形の変形なども群を作ります。たとえば、図形を平行移動・回転・鏡映変換(左右逆にする、線対称ともいう)したとき、図形の形と大きさは変わりません。そしてこれらの変形を繰り返し行っても形と大きさが変わらないという性質は保たれたままです。これらの変形を合同変換といい、これも変換の合成を積とみなせば群を作ります。

ここで、正6角形を不変に保つ変換(元の正6角形とぴったり重なるように動かすこと)について考えてみましょう。これは頂点を別の頂点に移す変換として考えることができ、60度の整数倍の回転と、3本の対角線および対辺の中点を結んだ3本の線を軸とした鏡映の合計12種類が考えられます。いまはこのうち6個の回転を考え、これを${a_0, a_1, a_2, a_3, a_4, a_5 }$としましょう。

$a_0$は0度(360度)の回転で、これが単位元(何もしない変換)$e$になっています。また二つの回転を合成したものは、角度を足したものになっていますから、これも6個の回転のうちのどれかに(360度の差を無視すれば)同じになります。また60度に対して300度の回転といった逆元が存在します。さらに交換則も成り立つことも確かめられます。以上のことから、この変換は一つの加群を構成することが分かります。

さて、恒等写像を$a_0 = e$、60度の回転を$a_1 = a$とすると、$a_2 = a^2$, $a_3=a^3$, $a_4=a^4$ , $a_5=a^5$となり、$a^6=e$と6個目でもとに戻ります。このように積を繰り返していくと恒等写像に戻るような群を「巡回群」といいます。

この「6乗すると単位元になる」という性質はこの回転による群だけではありません。複素数の世界で考えて、
\begin{equation}
z^6 = 1
\end{equation}
の解である複素数、
\begin{equation}
z = \cos \frac{\pi}{3} + i \sin \frac{\pi}{3}
\end{equation}
とこれの累乗が作る群も同じ性質を持ち、複素数の積に関して加群を作り、まったく上の巡回群と同じ性質を有していることが確認できると思います。これはド・モアブルの定理からこの複素数$z$が60度の回転を表すということからも明らかでしょう。このように、姿は違えども同じ形の計算規則を満たす二つの群は同型である、といいます。

さらにいえば、60度の回転を表す行列
\begin{equation}
R =
\begin{pmatrix}
\cos \frac{\pi}{3} & -\sin \frac{\pi}{3} \\
\sin \frac{\pi}{3} & \phantom{-}\cos \frac{\pi}{3}
\end{pmatrix}
\end{equation}
とそれの累乗が作る群も同じ性質をもちます。これら3つの群はすべて同型です。最初の図形としての巡回群は「図形の変換」を表す群でした。他の二つは1つの複素数、あるいは2次の実正方行列(正確には直交行列、後述)という違いはあるものの数を使って表されています。このように、何かしら数を使って表されたものを、その群の「表現」といいます。一番簡単な例である2次元の回転にも2種類の表現があったように、一般にその表現は一種類とは限りません。このことはのちに四元数を理解するうえで重要なポイントになってきます。

次節では行列の作る群について、もう少し分類をしておきたいと思います。これは少し専門的になりますが、表現の話だけでなく、四元数や場の理論といったさまざまなものと関連する事柄なのでいまのうちに触れたいと思います。

リー群―行列の部分群たち

まず一番広い群は正方行列の作る群で、$n$次の一般線形群(general linear group)($GL(n)$)あるいは実数を要素にするという意味で($GL(n, \mathbb{R})$)と書きます。複素一般線形群ならば($GL(n, \mathbb{C})$)です。

これに条件をつけたもので群を構成するものがあります。これらは群の部分集合が群になっていると意味で部分群と呼ばれます。

まず大きなくくりとして行列式が1になるものに限定します。行列式は行列の積に対して$det|AB|=det|A| \cdot det|B|$が成り立ちますから、行列式が1になる行列同士をかけるとその結果も行列式が1になります。よって、これは群を作り、特殊線形群$SL(n,\mathbb{R})$(複素係数なら$SL(n,\mathbb{C})$)と呼ばれます。以下、「特殊」=「行列式=1」と読み替えてください。また一般的に、複素数は1つの要素について実部・虚部の2つの変数があることとになりますので、その自由度(独立な変数の数)は倍になります。

次に実行列のうちで、
\begin{equation}
A^{T} = A^{-1}
\end{equation}
が成り立つ行列を直交行列といいます($A^{T}$は$A$の転置行列)。なぜならば、この行列の行ベクトルあるいは列ベクトルは、それぞれお互いに直交するベクトルになるからです。これも積について群を作ります。これは直交群$O(n)$と呼ばれます。

この直交群に「行列式=1」の条件をさらに加えたものが特殊直交群(SO(n))で、これは先ほど出てきた回転行列のことですから、回転群とも呼ばれます。直交行列の定義から、$A^{T}A = E$($E$は単位行列)であることを用いて、転置行列の行列式が元の行列と同じことに注意すると、
\begin{equation}
1 = det|E| = det|A^{T} A| = det|A^{T}| det|A| = det|A|^2
\end{equation}
より、$det|A|=\pm 1$になります。このうち1のほうだけに限定したものが特殊直交群です。これは列ベクトルがなす正規直交系をが元の座標系を回転させたものだけに限定し、座標の反転は含まないように選ぶことに対応します。

次に複素行列の例を考えましょう。$A$の随伴行列$A^{\dagger}$(右上の記号は「ダガー」と読みます)を$(A^{T})^{*}$つまり転置してすべての要素を複素共役したものとして定義します。このとき、
\begin{equation}
A^{\dagger} = A^{-1}
\end{equation}
となるものをユニタリー行列といい、これらが作る群をユニタリー群$U(n)$といいます。上と同じような議論で、このときユニタリー行列の行列式は絶対値1(その意味でUnitaryと呼ばれるわけですが)の複素数となります。さらに行列式を1に限定したものが特殊ユニタリー群$SU(n)$です。ユニタリー行列は量子力学で重要な意味をもつ行列です。

これらのほかにも実行列では交代行列(転置が元の行列の-1倍になる)や、複素行列のエルミット行列など、群を作るものはたくさんありますが、このくらいにしておきます。

前節の議論を踏まえると、上に出てきた部分群のうち、$SO(2)=U(1)$であることが言えます。ここで$U(1)$は絶対値が1の複素数です。そのことを確認しておきましょう。いま、1次元の複素正方行列とはただの複素数(z)のことです。そして、
\[z^{\dagger} = z^{*}\]
ですから、条件$z^{\dagger}=z^{-1}$は、結局、$z^{*}z=1$、すなわち絶対値が1であることと同じです。$SO(2)$は上に書いたように2次の回転群ですから、両方とも2次元の回転を表していることになります。ここで重要なことは2次元の回転が可換であることに対応して、その表現である$SO(2)$も$U(1)$も可換だということです。次章以降でみる3次元の回転は可換ではありません。このことがそれを表す群の計算規則にも反映してきます。

以上に紹介したような行列のつくる群をリー群といいます。ここまで紹介したらリー代数についても触れるべきなのでしょうが、それはまた別の機会にしたいと思います。

まとめ

今回は、次の議論に入る前の準備として、計算のルールに着目した抽象代数学についてみていきました。その中で、「結合則・単位元・逆元」の3つの基本要素を持つものを群と呼んだのでした。そして「交換則」は一般には成り立たず、交換則が成り立つ特別な場合を加群と呼びました。

後半は、行列の作るリー群について触れました。そこでは2次元での回転を例にして、二つの群が同型になる場合をみました。

さて、次はいよいよ四元数の話に入ります。まずは最初の流れにそって、方程式や因数分解という方向から四元数へ迫ってみたいと思います。その上で、四元数の作る世界についていろいろな角度から掘り下げていくつもりです。

数ー3.群論,数学

Posted by KayTea