相対性理論 まえがきと目次
まえがき
世の中に相対性理論について書かれた文章はたくさんあります。その中には、いろいろな書籍もあり、図やイラストを中心にして素人にも分かりやすく説明しようと腐心された労作もあれば、相対論の基本的な部分は前提として、論理的かつ簡潔に議論を構成していくようなものまで様々です。一方で、世の中に「相対論は間違っている」と主張する本もたくさんあります。現代において、ここまでアンチの多い科学理論というのもほかにはないのではないでしょうか。このようなところに、なぜわざわざ自分が駄文を書いて付け加えようと思ったのか。どういう方々を想定してこのような文章を書こうと思ったのか、というところについて述べておきたいと思います。
一つ目に、自分の理解の整理のためというのがあります。いちおう、自分は物理学を専攻として大学を卒業し、もちろん相対論については理解したと思っていました。しかし、ローレンツ変換や基本的な相対論の帰結について理解したつもりでも、ひとつひとつの事柄をきちんと説明しようとなると色々と理解が不確かな部分が多いことに気づきました。そういう部分をきちんとまとめておきたいというのが初発の動機です。とくに、相対論の論理的な構成を自分なりに整理したいと思っています。
二つ目に、ローレンツ変換の性質についてもっと掘り下げておきたいというのがあります。ローレンツ変換は、見た目は1次変換の形をしており非常に簡単に思えます。しかし、行列の積は交換しないという数学の基本的なことがらから、ローレンツ変換は普通の座標変換のようにはいきません(なじみ深い平行移動や2次元の回転は交換します。しかし、同じ回転でも3次元になると交換しなくなります)。また、よく知られているように相対論の時空では、「長さ」の計算に負の係数が現れる「双曲型」の幾何学になります。これのユークリッド空間との違いも注意しておきたいところです。ローレンツ変換の導出自体はそれほど難しいものではなく、それをもって「相対論は難しくない」という書籍も少なくないですが、実際にローレンツ変換を使って物理現象を考えていくことはそんなに簡単なことではない、という部分をなるべく丁寧に見ていきたいと思います。
三つ目に、相対論的力学の構成について、なるべく前提や仮定を置かずに、どこまで論理的に作ることができるか、ということを突き詰めてみたいというのがあります。ローレンツ変換に対する変換性から式の形を仮定する方法も、確かに美しい方法ではあるでしょう。ですが、あえて物理的にどろくさく考察して、力学の基本に立ち返りながら相対論において力学がどのような形になるべきか議論を組み立てていきたいと思います。その中では「質量」や「力」の概念についての再考も行われるべきでしょう。
四つ目に、世の中の「相対論は間違っている」という議論に対して、一定の自分なりの解答を提示したいというのがあります。そういう議論をひとつひとつ取り上げていくことはしないかもしれませんが、相対論に対する誤解をもとに批判しているものが多いという印象があるので、そういう誤解を解くことを意識した作りにしていきたいと思います。
以上のような動機でこの文章は書かれるので、「誰にでも分かる」とか「相対論入門」ということを標榜するつもりはありません。むしろ、一度相対論を学んで一通りは理解した、と思っているような方に読んでもらいたいと思います。その上で、ご感想やご批判をいただければ幸いです。
目次
このシリーズの目次を置いておきます。
第1部 相対性理論の運動学
第1部では、相対性理論の運動学的側面、主にローレンツ変換をテーマにします。まず、歴史的になぜ相対論が必要とされたのか、19世紀の物理学が直面した課題から、どのようにそれが克服されたのかをみることで、相対性理論の必要性を確認します。そして、光速度不変の原理からローレンツ変換が導き出されることを示します。その後は、ローレンツ変換を使う上で必要となったり、注意しなければならない数学的性質を見ていきます。その上で、ローレンツ変換によって世界がどうみえるのか、ということを見ていきます。
第1部では、おもにローレンツ変換を題材に、世界が「どう見えるか」に焦点を当ててみてきました。ここにはまだ、力とか加速度とか、運動の変化についての議論が入っていません。第2部では、相対論においてどのような力学を作るべきなのか考えていきます。そこでは、力学の基本となる「質量」や「力」といった概念をもう一度検討することも含まれるでしょう。
1-2 なぜ「光速度不変の原理」なのか?
1-3 特殊相対性理論
1-4 ローレンツ変換の数学的性質
1-5 ローレンツ変換の帰結
第2部 相対性理論の力学
まずは、物理学の基本となる「質量」概念から考えます。
次に力学の法則を相対論的に書き直していきます。その上で、相対論の出発点ともなった電磁気学を含めた力学を作ります。
2-1 相対論的力学
2-2 質量とエネルギーの等価性
2-3 解析力学による相対論
相対性理論と電磁気学
これまで見てきたように、光をはじめとする電磁場の現象に対する探求が端緒となって相対性理論は生まれました。それは光あるいは電磁場の「媒質」としてのエーテルの存在を否定しました。しかし、その一方であらゆる現象は光の速さを超えて伝わることがない、ということが結論され、それによって空間を超えて瞬時に伝わる「遠隔作用」の概念が捨てられることになりました。これによって、空間そのものに電磁気の性質を持つ「場」の役割があるという考えにまとまっていきます。この場の概念こそ、相対論以降の物理にとって「近接作用」を表現する重要な道具立てになります。
これまでは物質の運動方程式という観点から、相対論的な力学の整備をしてきました。しかし、ここからの議論は具体的な「力」がどのようなものなのかということ抜きには進められません。第3部では、電磁場を題材として「力」の性質について考えていきます。これによって、エネルギーや運動量の保存といったことも具体的に考えることができます。
電磁気学をもとにして生まれた相対論によって、どのように電磁気現象が説明されていくのか、とくに相対論との関係が深いところを選んでみていきます。また、電子の古典的(非量子論的)モデルがどのようにさまざまな現象を説明するのか、とくに光(電磁波)の放出について考えていきます。その中で、古典的な電磁気学がもつ限界点にも触れることにしました。なぜならば理論の限界を知ることも、その先の理論を考える上での重要なポイントになるからです。
3-1 電磁場のローレンツ変換
3-2 電磁場の共変形式
3-3 電磁場のエネルギーと運動量
3-4 相対論的電磁気学の帰結と限界
加速度系の相対論
特殊相対性理論というと慣性系、すなわち加速度のない系での話というイメージがあると思いますが、慣性系から加速度のある現象を考えることはできます。最後は、等加速度系や回転系を考えることで、相対性理論の枠組みでどのように世界が見えるのか、ということを考えながら、一般相対性理論への橋渡しをしたいと思います。
4-1 等加速度運動の相対論
4-2 回転座標系の相対性理論
4-3 スピンの古典論
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